家元の寵愛≪壱≫



何処かへ行こうとする父親の腕を咄嗟に掴んだ。

―――――そう、答えは出ている。


「要るに決まってるじゃない!!」

「だよな?」


私が引き止める事なんてお見通しの父親。

そりゃそうだよね。

今朝まであんなにも不安で

藁をもすがる想いで必死に念じてたんだもの。


父親の突飛な行動に驚くあまり、

零れかけていた涙はすっかり止んでいた。



「……はい、了解です」


ヘッドマイク越しに何やら会話をしている月島さん。

にこやかな笑みを浮かべ、私のメイクをサッと直した。


「では、お時間です。思い切り楽しんで下さいね」


そう告げた彼女は深々とお辞儀をし、

私達の前にある大きな扉の前に。


「ゆの」

「………ん」


スッと差し出された父の腕。

私は深呼吸してそこへそっと手を掛けた。



「では…………いってらっしゃいませ」



月島さんの声と共に

目の前の大きな扉がゆっくりと開かれた。