家元の寵愛≪壱≫



勿論、向かう先は最愛の妻のもと。


数カ月もの間、心に鎧を被り

愛おしい人の心を蔑にして傷つけてしまった。


けれど、全てはその最愛の人の為。


きっと、時間が解決してくれる。

………そう信じていた。



そして、漸く、この日を迎える事が出来たんだ。


どんなに焦ってもイラついても、

時間だけは早送り出来ないから、心の底から願っていた。



――――――きっと、この先には

倖せな時間が訪れるのだと―――――――




車を郊外へ走らせ、長閑な風景に目を奪われる。


所々に桜が咲いて、

色とりどりの花々が庭先に咲き誇っている。


都心から少し離れただけで、

こんなにもゆっくりとした時間が流れる場所があったなんてな。



眼福に預かりながら、1本道の農道を突き進んだ。




そして、1軒の庭先に漸く辿り着いた。

視界に映ったのは、久しぶりに見る愛妻の車。


少しだけ車体が黒ずんでいる。

そんな些細な事に内心ホッとする俺がいた。


………この車を洗車するのは、俺でいい。


そんな事を思いながら、彼女の車の横に車を止めた。