家元の寵愛≪壱≫



「25年間、お世話になりました」


俺は照れ臭さを押し切る形で感謝の言葉を口にした。

すると、


「25年もの間、わしらの息子でいてくれてありがとう」


そう口にした親父は目尻にしわを寄せて笑みを零した。

そして、


「私達を親にしてくれて………ありがとう」


母さんにしては珍しく、震え気味の声。

俺をじっと見据える瞳は涙を浮かべていた。


「母さん」


何だかんだと言っても、

母さんはいつだって俺の味方でいてくれた。

稽古が辛くて泣き腫らした時も、

いつも寄り添ってくれたのは母さんだった。


いつになっても、何歳になっても

俺はこの両親の子供でいる事には変わりない。


心の底から感謝の気持ちを込めて、

今一度、お辞儀をすると


「これからは、自分の家族の為に頑張りなさいね」

「困った事があれば、いつでも頼っていいんだからな」

「…………はい」


ゆっくりを顔を持ち上げると、

愛情に満ちあふれた表情をしていた。


「では……」


俺は気合を入れ立ち上がり、その場を後にした。