家元の寵愛≪壱≫



―――――3月17日


今日は俺の25歳の誕生日。


『家元・香雲』を襲名して、2年目を迎えた。



『今日は特別だから』と、朝稽古を免除して貰い、

ゆのを迎えに行く準備を整えた。



一通りの荷物を車に積み込み、

漏れが無いか、今一度確認する。


………ゆのの荷物はこれで全部だよな?


漏れが無いことを確認した俺は、

両親がいる母屋へと向かった。



母屋の奥座敷の襖を開けると、

床の間の前に正座している両親の姿が。


そんな2人の前に正座して。


「親父、お袋」

「準備は出来たのか?」

「ん」

「気を付けて行って来い」

「はい」


親父は穏やかな顔で頷いた。


「隼斗」

「ん?」

「いい男になったわね」

「は?………何言ってんの?急に」


相変わらず、母さんの言う事は理解出来ねぇ。

だが、俺を一人前の男として認めてくれたんだという事は解った。


母親は観音菩薩のような慈愛に満ちた表情をしていた。




俺は両親の前に手をついて、