家元の寵愛≪壱≫



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隼斗さん、おはようございます。


私は毎日、

さゆりさんから料理を教わっています。


お仕事は順調ですか?


明後日は隼斗さんの誕生日なので

逢いに行っても良いですか?


お仕事の邪魔は絶対しないので、

10分で良いので逢いたいです。

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父親の元へ手放して初めて来たメールだった。


彼女の文体はとてもぎこちなく、

言葉を選び選び綴った事が窺える。


こんな風に気を遣わせているのは、やはり俺だ。


『誕生日』

離れていても覚えてくれていたんだと知り、

胸の奥がじんわりと温かくなる。


あんなにも素っ気なく、追い出したというのに。



俺は彼女からのメールを何度も何度も読み返し、

そして、たった1行、返事を返した。



『17日、10時に迎えに行く』



俺は携帯を懐にしまい、仕事場へと車を走らせた。