家元の寵愛≪壱≫



『家元』として遣る事が多すぎて、時間が足りない。

…………足りなさ過ぎる。


ゆのとゆっくり過ごしたくても、

ゆのを笑顔にしたくても、

ゆのの愛情に応える時間すら、今の俺には無い。


だから、俺らの間には距離が出来てしまったんだ。


彼女が必死になって縋り付いてくれたのに

俺はその手を突き放してしまった。


後悔してもし切れない程の罪悪感だけが残る。



全ては俺次第。

俺が彼女の為に出来る事は――……。





いつも通りに茶道教室をこなし、

父親であるご隠居が稽古をつけている柳幻荘へと。


弟子達が会釈する中、奥の茶室へ。


「………少しは落ち着いたか?」

「…………はい」

「茶会も近い。仕事はきちんとこなしてこそ、一人前だ」

「……はい」


父親の言葉が胸に響く。


「辛かったら助けを求めて来い。出来る限りの手助けはしてやる」

「ッ」

「お前は『家元』である前に、俺の『息子』だからな」

「………親父」

「まぁ、母さんよりはさり気なく助ける事が出来るだろうから……な?」

「………フッ、そうだね」