『家元』として遣る事が多すぎて、時間が足りない。
…………足りなさ過ぎる。
ゆのとゆっくり過ごしたくても、
ゆのを笑顔にしたくても、
ゆのの愛情に応える時間すら、今の俺には無い。
だから、俺らの間には距離が出来てしまったんだ。
彼女が必死になって縋り付いてくれたのに
俺はその手を突き放してしまった。
後悔してもし切れない程の罪悪感だけが残る。
全ては俺次第。
俺が彼女の為に出来る事は――……。
いつも通りに茶道教室をこなし、
父親であるご隠居が稽古をつけている柳幻荘へと。
弟子達が会釈する中、奥の茶室へ。
「………少しは落ち着いたか?」
「…………はい」
「茶会も近い。仕事はきちんとこなしてこそ、一人前だ」
「……はい」
父親の言葉が胸に響く。
「辛かったら助けを求めて来い。出来る限りの手助けはしてやる」
「ッ」
「お前は『家元』である前に、俺の『息子』だからな」
「………親父」
「まぁ、母さんよりはさり気なく助ける事が出来るだろうから……な?」
「………フッ、そうだね」



