家元の寵愛≪壱≫



――――朝食後、

俺はゆのを父親の元へと手放した。


門前で彼女の車が見えなくなるまで見届けていた。


そして、すぐさま彼女の父親へと連絡を入れた。


今回の経緯を包み隠さず話し、

傷つけてしまった彼女を優しく迎えて欲しいと。


図々しのは百も承知。

それでも、俺には頼る人が他には居なかった。



ゆのが居なくなった家はガランとしていて、

何とも言えない寂寥感を覚えた。



俺は着物の懐から――――取り出す。

ゆのから貰った贈り物の数々を。


初めてのクリスマスに貰った『レザーのブレスレット』

家元襲名と24歳の誕生日を祝って貰った『羽織紐』

夫婦になって初めて迎えたクリスマスで貰った『懐紙入れ』と『刺しゅう入りの手ぬぐい』



彼女から貰った手ぬぐいでそれらを包んで

いつも肌身離さず懐に収めている。



彼女の愛情がギュッと詰め込まれたそれらに

俺の胸がジンと熱く疼き始める。



―――――俺は焦燥感に襲われた。