家元の寵愛≪壱≫



『何かあった?』それを私に聞く?

ありまくりだし、そんな事……言えないよ。


だって、尾行した事がバレるし

私が嫉妬してるのがみえみえだし、

元より、浮気の事実を認められても困る。

どうしていいのか分からないよ。



「………別に何も無いですよ」


これが今私に言える、ベストな言葉。


「そうか?」

「はい」


腑に落ちないと言った表情だが、そこはスルーをした。

突っこまれても困るし、その話題には触れたくない。



彼が『結婚記念日』を覚えていてくれた事が嬉しくて、

さらに私にプレゼントを用意してくれていた事に感激して。


今だけはどっぷりと倖せに浸かってもいいよね?



彼の背中をギュッと抱きしめると、


「なぁ、ゆの」

「はい?」

「その………キスくらいは……してもいいか?」

「え?」

「フッ………やっぱりダメだよな」


苦笑しながら肩を竦める隼斗さん。

………キス?

いつもならいちいち聞いて来ない彼。

今日は私がダウンしてるから気を遣ってくれてるみたい。


体調不良でもキスしたいと思って貰えるなんて……。