家元の寵愛≪壱≫



『すぐ帰る』と言っていたのに

日が沈んだ今になっても帰って来ていない。


余程、あちらの方が楽しいみたいね。



現実に打ちひしがれながらも

それでも諦めきれないでいた。


だって、私は彼の『妻』なんだもの。



ベッドサイドに腰掛けた状態から

パタンと倒れるように横たわる。


身体はまだ全快していないからなのか、

横になると睡魔が襲ってくる。


早く逢いたい。

こんなにも逢いたいと思う事なんてなかったのに。


やっぱり、私以外の女性の存在がそうさせるのかな?



彼が優しく触れる感触を思い出し、

彼が優しく囁いてくれる声音を思い出し、

彼が優しく見つめてくれる眼差しを思い出し、

彼と過ごした幸せな時間を思い出しながら


彼の帰りをウトウトしながら待ち侘びていた。




ふと、頬に触れるヒンヤリとした感覚と

その後にかかる温かな吐息が

私が待ち侘びている人によるものだと教えてくれた。



「……お帰り………なさい」

「………ただいま」