家元の寵愛≪壱≫



彼のいなくなった寝室は氷の世界みたいに

暖房がついていても布団を被っていても

身体の芯から寒くて震えが込み上げて来た。


私が風邪を引いて熱があるから?

まだま肌寒い季節だから?


ううん、そんな事解りきってる。

彼が私より他の誰かの元へ行ってしまったから。



何とも言えない虚無感は

私を孤独な世界へと誘い込んでいた。



そんな現実から逃避するように深い深い眠りへと。






再び目を覚ました私は、

気力を奮い立たせて浴室へと。


鏡に映る自分の姿に溜息が零れ出す。


こんなみすぼらしい姿を晒してただなんて。


血色が悪く、髪は乱れ放題。

挙句の果てには唇はガサガサだし、

肌にも吹き出物のようなものまで出ている始末。



これじゃあ、飽きられてしまってもおかしくない。

幾ら性別は女であっても、これでは見るに堪えない筈。



私は隼斗さんに着せて貰った服を脱ぎ捨て、

シャワーを浴びる事にした。


シャワーを浴び終えた私は、

肌の手入れをして、髪を整え、

血色がよく見えるようにほんのりとグロスを塗った。