家元の寵愛≪壱≫



「おっ?!ゆの、起きたのか?」

「ッ!!」


隼斗さんが部屋着姿で姿を現した。

そして、手にしていたお盆を床頭台の上に置き

ベッドサイドに腰掛けた。


いつもと変わらない優しい表情で。



「どれどれ……?」


そっと、私の額に手をかざして、


「ん、熱はだいぶ下がったみたいだな。でも、まだ寝てろ?完全に治るまでは部屋から一歩も出るなよ?」

「………」


ひんやりした彼の手は

いつものようにとても優しく、

額から髪へをつたう指先もまたとても繊細に触れて。



こんな何気ない彼の仕草にも

『今だけは私を見ていてくれる』と安心して……。



「ッ?!……おい、どうした?どこか痛むのか?……苦しいのか?」

「………」


突然、涙が溢れ出した。

それを見た彼は動揺を隠せない様子。


私が体調不良で涙しているのだと思って……。



風邪なんて、寝てれば治る。

だけど、心の傷は幾ら寝ても治りそうにない。


頬をつたう涙を拭う彼の手に自分の手を添え、

彼のぬくもりをじっくりと感じていた。