家元の寵愛≪壱≫



彼の車は目立つ筈なのに、

日が沈んでしまった市街地は

車のライトと街を彩るネオンが邪魔をし

見つけ出す事は出来なかった。



暫く車を走らせた私だったが、

結局、思い当たる場所も無く、

更には自分の行くあても無く……。


気付けば、自宅の駐車場に到着していた。



重い足取りで離れへと戻り、

電気も付けないまま、

真っ暗な部屋のベッドへダイブした。



3月上旬と言っても夜はまだ冷える。

寒い筈なのに、身体の感覚が麻痺しているみたい。


寒いどころか、

どうやって呼吸をしていいのかさえ分からない。


息苦しくて、

胸が抉られるように痛んで、

止めどなく涙が溢れ出した。



助手席に乗り込んだ女性の顔が脳裏に焼き付いて…。

そんな彼女に笑顔で話し掛ける隼斗さんの姿がよみがえる。


2人を乗せた車が市街地の道路に呑み込まれていくのを……。



残像のように何度も何度も繰り返し、

身体が暗黒の世界へ引き込まれるように

重く、痛みを伴いながら堕ちてゆくように思えた。