家元の寵愛≪壱≫



爆音とも思える独特のエンジン音を響かせ、

彼の愛車は守衛小屋を通過し、

軽快に市街地へと走り出した。


私はすぐさま彼の車の後を追って……。


一定の距離を保ちつつ、

決して見失わないように細心の注意を。



15分程走った車は

市内でも有数の高級ホテルの入口に停車した。


――――――えっ?!

もしかして、ここで女と会うの?



一般道の路肩に停車した私は、

窓越しに彼の動きを窺っていると。



運転席から降り立った彼は

駐車係に鍵を渡すのではなく、

エントランスから出て来た女性に軽く手を上げ

何やら話をしている様子。


そして、その後、

その女性が隼斗さんの車の助手席に乗り込んだ。


――――――そこは、私の席だよね?


一部始終を目撃した私は手が震え出していた。



これは一体、どういう事?

どうして、その女性を乗せたりするの?

っていうか、そもそもその人、誰?!


ホテルの入口から市道へ出た車は

夕方の渋滞の中、あっという間に姿を消した。