家元の寵愛≪壱≫



聞きたい事は山ほどある。

けれど、きっと私は聞けない。

彼がなんて答えるのか、聞くのが怖い。


毎日が幸せすぎて、麻痺してしまった。

――――――彼は凄くモテるという事を。



きっと、茶道協会の方々と飲みに行って

そこで接待をしてくれたお姉様方の香りが

気付かぬうちに付いてしまったのだろう。


……そうだ、そうに違いない。


自分に言い聞かせるように、

夜が明けるまで何度も唱えていた。







そして、その日の夜も

そのまた次の日の夜も

そのまた次も……そのまた次の日の夜も。


――――――隼斗さんの帰りは毎日深夜に。



本人は『忙しくて、ごめんな』と言うけれど

どう考えても納得できない。


日付が変わるような時間まで

密室のような茶室で稽古してるって言うの?


―――――一体、誰と??