家元の寵愛≪壱≫



薄暗い寝室の天井をぼんやりと眺め

彼の寝息と鼓動を肌で感じて、

これは『夢に違いない』と

心の中で何度も何度も唱えていた。





体内時計が時を伝えたのか、

4時少し前になると、

むくりと起き出した隼斗さん。


寝ぼけているようにも見えるが、

手元はしっかりと動いている。

下着を手にして、浴室へと向かった。


そんな彼を僅かに開いた瞼の隙間から眺めていた。





シャワーを浴び終えた彼は

手早く稽古着に着替えて、母屋へと向かって行った。



何て声を掛けていいのか分からず、

………挨拶すら出来なかった。



だって、だって……。

ほんの少し前まで彼がいた私の隣りから

夜更けに嗅いだ香りが仄かに漂ってくる。


私をベッドに縛り付け、

鋭利な刃物で串刺しにするかのように。


動きたくても動けない。

姿の見えない誰かに押さえ付けられているようで。