家元の寵愛≪壱≫



首筋にほわっと温かいぬくもりを感じて

薄らと重い瞼を開けると、


「ッ!!………隼ッ……斗さん?」

「悪い…………起こしたか?」

「あっ、……いえ」


抱き締められるような体勢で

彼は私の首筋に顔を埋めていた。


くすぐったいという思いもあったが、

そんな事より、気になる事が………。


隼斗さんは余程疲れていたのか、

既に規則正しい寝息を立て始めていた。


チラリと時計に視線を送ると、

――――――2時35分。


えっ?!

何でこんな時間に??


彼の身体はヒンヤリとしていて、

お風呂上がりの石鹸の香りはしていない。


というより、嗅ぎ慣れない香りが鼻についた。


何?………この香り。

茶室で炊くようなお香の香りでは無い。


一瞬で眠気も覚めてしまう程の香りが……。


ついさっき帰って来たとして、

こんな時間までどこで誰と何をしてたの?

この香りは何??

というより、香りが身体につくような事をしてたの?


ギュッと抱きしめられているのに

彼が物凄く遠くに感じる。