家元の寵愛≪壱≫



その後は桐島家で夕食を頂き、

20時近くに自宅へと戻った。



「あっ、ゆのちゃん」

「はい」

「今日はもう離れで休んでいいわよ」

「えっ?でも、お夕食の後片付けが……」

「牧さんがいるし、私がするから大丈夫よ」

「でも……」

「いいから。今日は慣れない所に行って、緊張したでしょ?」

「ッ!………」


お義母様には全てお見通しなんだわ。


「………はい。では、お言葉に甘えてそうさせて頂きます」

「ん、そうしなさい。それから、隼斗の帰りは遅いと思うから待たずに先に休みなさいね」

「………はい」



お義母様と母屋の玄関で別れた。

玄関の上がり口に置いておいた荷物を手にして、

私は離れへと向かった。



シーンと静まり返る庭を通り抜け、

飛び石の上をゆっくりと歩を進める。



隼斗さんの帰りが遅いと聞いて、

心の温度が低下し始めた。


2月下旬の冬空と同じで

ピリッと痛むような突き刺さる寒さ。


何とも言えない虚無感に襲われた。