家元の寵愛≪壱≫



幾度か角度を変え、言われるままに動くと


「ん、ご苦労だったね」

「ッ?!」

「ゆのちゃん、もういいわよ」

「えっ?」


俯き加減だった私は顔を上げると、

目の前でお三方が笑顔を向けて来る。


本当に、私はここへ何しに来たの?



私の表情を察してか、家元が口を開いた。


「今度の私の作品のインスピレーションに協力して貰ったんだよ」

「へ?………インスピレーション?」

「うむ。茶道と違って華道は、生ける花や花器、季節によっても大きく表情を変える」

「………はい」

「勿論、大会や祭典の趣旨も考慮しなければならないしね」

「………」

「依頼先のイメージに合ったものを生けるのは華道家の腕次第という事だ」

「……はぁ」


華やかに見える世界も茶道と同じで

日々のたゆまぬ努力の上に成り立っている。


持って生まれた才能だけでなく、

日々の努力はこうして、自らが探し求めている訳だ。


「あの……私はお役に立てたのでしょうか?」

「うむ。和服姿だったらまた一味違ったのだろうけどね」

「………そうですよね」


けれど、表情はとても晴やかなので心から安堵した。