家元の寵愛≪壱≫



どれくらいの時間が経ったのかさえ分からないが、

緊張のあまり、足が痺れ始めた。


藤堂家に住むようになって、もうすぐ1年3か月。

正座する事は毎日の事だから、痺れなくなったのに。


痺れた……だなんて、お義母様に知れたら

きっと厭きられてしまうに違いない。



私は無意識に足先に集中し、

くつ下姿でし辛くても必死になって

親指と親指を交差させた。


こうする事で痺れないのだと……。



足先に集中するばかりで

お三方の会話をすっかり聞きそびれていたら。



「ッ?!!」


急に目の前に家元がやって来た。


そして、徐に懐から手ぬぐいを出し、

私の顏先へそれをかざした。


すると、


「ゆのさん、悪いね。ちょっと視線を落としてくれないか?」

「えっ?」

「ゆのちゃん、言われたようにやってみて?」

「あっ……はい」


お義母様の言葉もあり、私は視線を落とした。

一体、何の為に?という疑問はあるが、

以前、隼斗さんから聞いた事がる。


―――――桐島蘭清は変わり者だと。