家元の寵愛≪壱≫



「お待たせして、申し訳なかったね」

「いえ。相変わらず、涼やかな花姿ですわね」


お義母様はサラッと言葉を紡ぐ。

私は生けられた花に目を奪われていた。


本物の生け花を見たのも初めてだし、

家元というプロ中のプロの技を拝見出来たのも

ある意味、藤堂の嫁としての特権。


隼斗さんと結婚してなかったら

こうして、華道家と顔を合わせる事すら無いんだから。



私はお義母様の隣りで静かに会話を聞いていた。

けれど、何故か、家元の視線は……。


………どうして?

私、何かしたかしら??


物凄い眼力で見つめられると、

金縛りに遭ったみたいに動けない。

視線すら外せず、ただただ家元を見つめ返していた。



すると、急にフッと柔らかな表情に変り、


「ゆのさんと言ったかな?」

「……はい」

「怖かったかい?」

「え?………いえ」


実際、怖いというより訳が分からず……と、

言った方が近かったのかもしれない。


家元が何をしたかったのか、

私は何故、ここに連れて来られたのか。


不思議で不思議で堪らない。