家元の寵愛≪壱≫



到着した先は、藤堂の家と似た造りの純和風のお屋敷。

車を降りて、正門をくぐる際に視界に入った表札。


――――――『桐島』


私の記憶が確かなら、

ここは華道家の桐島蘭清のお屋敷という事になる。


それって………。

もしかして、椿さんもいるって事だよね?




椿さんは隼斗さんの昔の彼女。

隼斗さんは遊びのつもりだったみたいだけど、

椿さんは本気だったみたい。

両家の仲がいいのもあって、

彼女は彼の妻になりたかったと言っていた。


彼女に会ったのが去年の初釜が最後。

今年の初釜には姿を現さなかった。


もしかして、私に遠慮してるとか?


先をズンズン歩くお義母様の背中を眺めながら

心の奥にどんよりと重い雲が広がり始めた。


すると、


「ゆのちゃん」

「あっ、はい」

「心配要らないわよ?」

「へ?」

「椿さんはフランスに留学してるから」

「えっ?!」

「だから、もう少し明るい顔、しなさいな」

「……………はい!!」


お義母様には全てお見通しのようだ。

胸の閊えがスッと晴れて、背筋を正した。


―――――今は私が藤堂の嫁なんだから。