家元の寵愛≪壱≫



隼斗さんの愛読書を手に母屋の玄関戸を開けると、


「ゆのちゃん、遅ーい!!」

「えっ?!」


玄関の上がり板の上に仁王立ちのお義母様。


「ど、どうされたのですか?」


今日はこれと言って約束はしてなかった筈。

それなのに、何故?


唖然としながら立ち尽くしていると、


「ちょっと出掛けるから、荷物はそこら辺に置いといて」

「え?」

「ほら、時間が無いから急いで!」

「あっ、はい!」


何故か、お義母様は私の腕を掴んで

駐車場へと足早に歩き出した。


目の前を歩くお義母様は着物姿で。


「あのっ、お義母様!」

「んッ?!」

「私、普段着ですよ?」

「あぁ、それなら大丈夫」

「大丈夫なんですか?」

「えぇ。ゆのちゃんは、身1つあれば大丈夫だから♪」


どういう事なのかサッパリ分からないけど、

お義母様は何故か楽しそうだ。



そんなお義母様の運転で

行先も分からない何処かへ向かう事に。