家元の寵愛≪壱≫



「実はうち(藤堂家)がお世話になっている紫泉堂(お香専門店)さんにお願いして、オリジナルのお香を作らせて貰ったんです」

「は?」

「私、隼斗さんへのプレゼントは『手作り』って決めていて。だけど、1人では出来るモノにも限界があるし」

「それで?」

「お義母様にお願いして、口を利いて頂きました」

「…………」

「隼斗さん、“枇杷”がお好きですよね?」

「ん?……ん。………はっ?!もしかして、この香り……」

「はい。もしかしなくても……」



ゆのはニコッと微笑み、そして……――……。


「ッ?!…………ど、どうした?………ゆの」


ゆのはゆっくりと俺に近づき、

そして、煽るように瞼を閉じ、俺に抱きついた。


こんな風に大胆な行動をする彼女じゃないだけに

俺自身、驚くと共に物凄い動揺。



すると、彼女の身体からもふわりと

甘く爽やかな枇杷の香りが漂って来た。


そんな甘い香りと共に

久しぶりの密な時間を身体全体で感じようと

俺もまた、ゆっくりと瞳を閉じた。



その時―――――。