家元の寵愛≪壱≫



「じゃあ、聞くけど、この部屋は?」

「こ、これは………サプライズです」

「サプライズ?…………何の?」

「何のって………『バレンタイン』の」

「ッ?!…………バレンタイン?!」

「………はい。去年もそうでしたが、今年も地方稽古が入ってるじゃないですか」

「………」


―――――そうだ!!

2月14日(明後日)は地方稽古がある為、

明日の昼過ぎから家を空ける事になっている。

だから、今日ってワケか。

……すっかり忘れていたな。


頬を赤く染めながら、俺を見据えている所を見ると

彼女の言い分は確からしい。


「じゃあ、この部屋の香りも?」

「………はい。お気に召しませんでしたか?」

「あっ、いや。香り自体は好きな方だ」

「はぁ、良かったぁ」


ゆのは安堵のため息を零し、柔和な表情に。


「じゃあ、この所、毎日のように甘い香りがしてたのは?」

「ッ?!………やっぱり、気になりましたか?」

「…………あぁ」


不安が拭い切れない俺に対し、

ゆのは言い難そうな表情に。