家元の寵愛≪壱≫



「どうかしましたか?」


俺の心理を探るように様子を窺うゆの。


どうかした、だと?

今日のゆのはどうかしまくりだっての!!


俺は居てもたってもいられず、


「ちょっと来い!!」

「えっ?!」


俺は強引に彼女の腕を掴んで、部屋へと。

そして、寝室の襖に手を掛けた、瞬間!!


「あっ、ダメッ!!」

「ッ?!!」


ゆのが声を荒げたと同時に

俺は勢いよく襖を開けた。


すると、

室内は柔らかい灯りが揺らめく行灯に照らされ

どこからともなく、爽やかな甘い香りが。


ん?

………この香り。


ついさっき、母屋の居間で嗅いだ香りと同じだ。

上品で優しく、仄かに爽やかさが漂って……。



「これは……?」

「あっ……えっと………」


ゆのは気まずそうに言葉を濁し、俯いてしまった。


敷居の手前で急停止した俺ら。

目の前の光景に驚くも

彼女の表情から察するに、

何となく、状況が呑み込めて来た。