家元の寵愛≪壱≫



思わず、身体がピタリと止まる。


職業病とでもいうのか、

茶や香の香りには敏感に反応してしまう。


ここが茶室ならともかく、

居間には不釣り合いの上品な香り。



「母さん、何?……この香り」

「あぁ、これ?ウフフフッ……戴き物よ。素敵でしょう♪」


少し自慢げに話す素振りにイラッと来るが、

僅かに香るその香りに心が反応してしまう。


何とも言えない、癒される微香に。


母親の自慢話に付き合い切れず、

俺は踵を返し、母屋を後にした。




―――――――ガラガラガラガラッ


離れの玄関戸を開けると、



「お帰りなさいませ」

「ッ?!!」


ゆのが玄関で、三つ指を立て挨拶を。


「たっ……だいま」


いつもと違う、古風な出迎えに

思わず、声が吃ってしまった。



すると、