家元の寵愛≪壱≫



あくる日。


ため息が零れ出すほど、変わらぬ日常。


朝の僅かな時間での充電では

1日も持たねぇっつーの!!


思わず、愛車のハンドルに八つ当たり。


俺は午後の茶道教室の会場へ車を走らせていた。





―――――19時過ぎ。

1日の仕事を終え、帰宅。


母屋へ顔を出すと、

母親が居間で送り状を書いていた。



「ただいま」

「あら、お帰りなさい」

「親父は?」

「商工会の会議で遅くなるそうだから、今日はもう休んでいいそうよ」

「ん~」


親父の帰りが遅い為、お茶点ては無しって事ね。

……了解。


俺も今日は打ち合わせを兼ねた会食だった為、

夕食は既に済ませてあるので、

着替えをする為、離れへ向かう事に。



居間の扉を閉めようとしたその時、

僅かに爽やかな甘い香りが香って来た。



「何?………この匂い」