家元の寵愛≪壱≫



俺はゆのの首筋に顔を埋める形で

ほんの少し、悪戯をしようと……。



柔らかい髪を掻き分け、

ゆっくりを唇を這わせて……。



すると、うなじに程近くの後ろ首で急停止。

俺のお愉しみ時間をブチ壊すほどの違和感が。



滑らかな肌には不釣り合いのそれは、

数日前に鎮火した筈の俺の心に

―――――――再び、炎を点した。



ベッドサイドの照明に手を伸ばし、

ゆっくりと視線を先程の場所へと。



――――――――――やっぱり!!


俺の硝子の心が容赦なくひび割れてゆく。

今すぐ、ゆのを叩き起こして問い質したい。


けれど、起こした所でどうにもならない。

自分で自分の首を絞めるばかり。


ならば、今は見て見ぬフリが1番なのかもしれない。

例え、ゆのが浮気をしていたとしても、

彼女の口から『別れ』を告げられるまでは。


いや、俺自身が『夫』である事を放棄するまで。

その最後の時まで、彼女の事を信じよう。


―――――――そう、心に誓った。