家元の寵愛≪壱≫



10日後―――――。


あれからというもの、ゆのとは軽いすれ違いの日々。


ゆのは学業と家業との2足の草鞋で忙しいようだ。

俺も『家元』として、すべき事が山ほどある。


お茶を点てる事は勿論の事、

香心流の主(あるじ)として社交の場に。


幼い時から父親の傍で見て来たから

それほど苦ではないが、それでもやはり、

自由な時間が激減したのは事実。



ゆっくりと愛妻と旅行にでも……。

そんな淡い想いが脳裏を過る。


そんな恋しい妻とゆっくり顔を合わせるのは

いつだって『ベッドの中』


けれど、元々寝つきのいいゆのは、

眠り姫のように俺の誘惑にも微動だにせず

完全に夢の国の住人と化している。



眠る彼女を抱きしめていても

どこか、物足りなさを感じて……。


やはり、何かしらの反応が欲しい。

30分、いや、5分でいいのに。


心の底から満たされる癒しの時間が

今は“燃料切れ”だと、

既に警告音が鳴り響いている。



俺はこの時、

―――――――限界に達していた。