家元の寵愛≪壱≫



『隼斗、悪いわねぇ。今日はゆのちゃんと出掛ける約束をしてるのよ~?』

「はぁ?」


嘘かどうかは分からないが、話の辻褄がピタリと合う。


『来月の茶事用の着物を誂えようと思ってね』

「………」


マジで?

ホントに外出予定だったのか?

何だか、俺1人、虫の居所が……。



チッ!!

んだよッ!!

せっかくの休みだってのに……。

親父同様、母さんも気を利かせてくれたらいいのに。



「明日じゃダメなのかよ」

『明日?明日はあちらさんが店休日だし、明後日から3日間は京都へ行く事になってるじゃない』



………そうだった。


両親が京都へ行く事は、

だいぶ前から決まっていた事。



『京都から戻ってからだと、間に合わなくなりそうだもの。今日くらい我慢しなさいよ』

「………」

『隼斗、ちょっとゆのちゃんに替わってちょうだい』


やれやれ的な母親の口調にムッとしながら、


「ん」

「へっ?」

「母さんが替われって」


嫌々携帯をゆのに手渡すと、