家元の寵愛≪壱≫



返事が無い。

無言のまま、俺の胸元に顔を埋めて。



いつからこんなにも甘え上手になったんだ?


掻き消したハズの想いが

再び、チラチラと姿を見せ始めた。



男を誘う『上等なセリフ』

男をその気にさせる『無言の圧力』


しかも、ベッドの中で……。



今までの俺なら今のセリフも

スイッチが入る合図になったに違いない。


けれど、今の俺は180度違う角度で見てしまう。


『野獣』と呼ばれる圭介さんに、

純粋無垢のゆのが開発されたんじゃ……。



無意識に眉間にシワが寄ってしまう。

信じたいと思っていても、心が勝手にあらぬ方向に。



すると、


………ん?

はっ?!

おいっ、マジかよ。



俺の胸に寄り添うゆのは、

気持ち良さそうに寝息を立てて寝てしまった。


まだ、22時を回ったばかりだというのに。


密な時間とでもいうべきこの時間に

スヤスヤと完全に寝入っている。



ますます思考があらぬ方向に……。