家元の寵愛≪壱≫



「何か、悩み事ですか?」

「ん?」

「先程から、難しい顔をしてますよ?」



『難しい顏』……ねぇ……。


ゆのの携帯を見たとは言えず、

メールの事を問い質すことも出来やしない。


それに、さっきの甘い香りだって

よくよく考えれば、大した事じゃないし。

買物中に香水を試しに振りかけただけかもしれないし。


けれど、胸の奥が重く淀んで

彼女に対して、疑心暗鬼になっていた。



「あのさ」

「はい?」

「車があったけど、何で出掛けたんだ?」

「えっ?あっ、車ですか?玲が家まで迎えに来てくれたので」

「玲って、圭介さんの妹?」

「はい」



可愛い笑顔を見せ、素直に答える所を見ると

『浮気』はしていないようだな。


はやり、俺の気にし過ぎか?


今は彼女の言葉を信じたい。

5歳も年下の幼な妻に対して、

これじゃあ、嫉妬心丸出しだよな。


フッ、マジでカッコ悪い。



畳上に仰向けに横たわる俺の横に

ゆのはちょこんと正座した。