家元の寵愛≪壱≫



のんびり……かぁ。

それも分からなくも無い。


遊びたい盛りの大学生だし、

今までバイト漬けで

『遊び』らしい遊びもしてないだろうし。


そう言われると、我慢せざるを得ないよな。

はあぁぁぁ~~。



「じゃあ、そういう事だから」


母親は用件だけ告げると、

不敵な笑みを浮かべて、母屋へと姿を消した。



再び、静まり返る……離れ。

時より、鳥のさえずりと律儀に刻む秒針の音。

そして、嫌でも零れ出す……俺のため息。


ゆの不足を知らせる警告音が響く中、

俺は寝室のベッドへ3度目のダイブをした。



―――――ボスッ


肌触りの良い羽毛布団に埋もれ、

ゆのの枕に顔を埋めた。


今はこれだけが俺の味方かよ。


枕から香るゆのの香り。

その仄かな香りが、ドス黒い心を浄化する。


そんな心地良い香りに包まれて、

俺は空気と化すかのように瞼を閉じた。


何もかも忘れ、

ただ、その香りを身に纏いたくて……。


引き込まれるように夢の世界へと。