家元の寵愛≪壱≫



怒りに負けて、襖や壁を殴り倒したい所だが

商売道具のこの手を怪我する訳には…。


ギュッと握りしめた拳を見つめ、ため息が。


俺は無意識にもそんな事を思い浮かべ、

苛立ちを発散し切れないでいた。



―――――ボスッ


再び、ベッドへダイブした俺は

ゆのの枕を抱きしめながら……。



『今すぐ帰って来い!!』

『感情がセーブ出来るうちに…』

『ゆの……ゆの……ゆのぉぉぉ~!!』



溢れ出すため息と共に

弱音ともとれる独り言を呟いていた。



その時!!


ガラガラガラガラッ


淀んだ室内に待ち焦がれた音が響いた。

それは紛れも無く、玄関が開く音。


俺は慌ててベッドから飛び降り、

一目散に玄関へと向かった。



普段から、畳や廊下を決して走らない俺だが

この時ばかりは一心不乱に。



愛妻を自ら出迎える為、

これ以上無いほどのデレデレの顔で。



すると、