家元の寵愛≪壱≫



「あの」

「ん?」

「最近、俺の嫁に会いましたか?」

「ん?隼斗の嫁にか?」

「……はい」

「ん~……そうだな。先週あたりに玄関先で顔を合わせたような」

「……それだけ?」

「あぁ。ってか、何が聞きたいんだ?」

「………」



何がって、

『2人の関係』に決まってんだろうが!!



けれど、圭介さんの口ぶりからは

疾しい雰囲気は窺えない。



「んッ?!隼斗、悪いな。女からキャッチが入った。また後でかけ直すな?」

「あっ、はい」

「マジで悪いな」


圭介さんは慌てて電話を切った。



ツーッ……ツーッ……ツーッ……。


再び、無機質な音が響く。



肝心な事が聞けなかったじゃねぇか。

それも、話の内容を察知した素振りで。


疑いたくはないが、

ますます気になって仕方がない。



俺はいたたまれない衝動に駆られ、


「うおぉぉおおぉぉぉ~~~」


腹の底から唸るような声を上げた。