家元の寵愛≪壱≫



「はい」

「もしもし?」



いつもながらに男前のテールボイス。

その声を耳にして、一瞬怯んでしまった。


けれど、言うべき事は言わないと。

それが例え、先輩だろうが関係ない。


ゆのは俺の『妻』なんだから。



「あの、圭介さん、隼斗です」

「ん、どうした?」

「今、大丈夫ですか?」

「おぅ、平気だ。んで、どうした?相談事か?」

「あっ、いえ、相談事では……」

「ん?」



圭介さんの口調からして、

何かを隠しているようにも思えない。


そもそも、圭介さんは『仁義』を通す人。


女を騙す事はあっても、

男友達は決して裏切らない。


そんな人がゆのに手を出すだろうか?



携帯を握りしめたまま、

ふと、そんな事が脳裏を過った。



「おい、隼斗、どうした?何かあって、かけて来たんだろ?」

「あっ……はい」


いつもと変わらぬ相手の口ぶりに

言いたい事が消え失せてしまう。



俺は深呼吸して、意を決した。