家元の寵愛≪壱≫



俺ら以外誰もいないダイニングで

地元野菜をふんだんに使った本格フレンチを戴いた。


このペンションは、

本格フレンチと手作りパン、

そしてオーナー自ら育てている有機野菜が自慢らしい。


ゆのが野菜好きという事もあり、

俺はこのペンションに決めた。



―――――20時30分過ぎ。

夕食を済ませた俺らは、

ペンションの周りを散歩する事にした。



「ゆの、寒くないか?」

「はい、大丈夫です。いっぱい着込んで来ましたから」


可愛らしく微笑むゆのは、

真っさらな雪の上に自分の足跡をつけながら

嬉しそうに木々の間を歩いている。


そんな彼女を見つめながら、


「なぁ、ゆの」

「はい?」

「今さらだけど、初めて俺と会った日の事、覚えてるか?」

「えっ?あっ、はい。覚えてますよ」


ニコッと笑みを零しながら、

長い髪を手でそっと撫でて。