梶谷 美紗との出会いを明確に語れと言われたら、きっと自分は思い出せない、と答えるだろう。

彼女は資産家の娘。

あと、プライドが高い。

関係を求めてきたのは、美紗からだった。

断る理由もなかったし、他の女と違って引き際をわきまえていたから、関係はそれなりに長続きしていた。


別れを切り出してしまえば、後腐れもないだろうと思っていたのに、厄介な女だ。

だが、それに気づくのは少しばかり遅すぎた。


「怖い顔ね」


店にいるという美紗の話を聞いた理人は、病院から真っ直ぐ、彼女の経営するネイルサロンへとやって来た。

店内には美紗しかおらず、あとは戸締まりだけという状態のようだ。


「何故、香坂に会った?」

「私、雨って嫌いなのよね。何か飲む?」


話をワザと無視して、美紗はイスから立ち上がる。