悪いことなんて、自分はひとつもしてない。

けど、理人の声のトーンでわかる。


(・・・・・・怒ってる)


理人は、あまり怒りを露骨に示したりしない。

幼少期、必要以上に我慢してきたからだろう。

だから、怒った時の理人には、近づかない、関わらない、と昔から決めていた。

手に負えないから。

怒りは持続して、火山のように噴火もせず、ただ静かに燃えるのだ。

そんな理人が、玲奈は1番怖い。


『香坂と、話したのか?』

「う、うん」


電話を切りたい。

でも、切ったら後が怖いから。


『話したか、美紗のことを』

「それは、その・・・・・・」

『話したんだな?』

「な、名前だけ。詳しいことは、何も」


理人の怒りを静めるのは、とても難しい。