そんな永輝くんを前にして、僕は嫌だというほど自分の無力さを思い知らされる。
一人で慌てふためいて、心臓がドクンドクンと爆発しそうなほど鳴り続けていて。
小刻みだった手の震えが、やがて全身に広がる。
……全力で何かを守るということ。
僕にはまだ……、無理なのかもしれない――。
――カシャン……ッ…!
部屋の床に点々と落ちた赤い血をぼんやりと眺めていた僕は、姉さんの手から滑り落ちたカッターナイフの音で我に返った。
「……遼太郎。救急箱持ってきて」
「あっ……、うん……」
姉さんはゆっくりと膝を折り、その場に座り込む。
姉さんの横顔を隠す柔らかい髪の隙間から震える唇が見えた。
僕は永輝くんに言われたとおり、台所の食器棚の上にある救急箱を取りに走った。


