もしも断ったら……、きっとあの包丁が飛んでくるかもしれない。 いや、絶対、飛んでくる。 前門の虎後門の狼――。 今日の授業で先生が言っていた諺が頭をよぎった。 今の僕って、まさにそういう状況じゃないか……。 「じゃ、行こうか」 笑っているはずなのに、顔の筋肉がこれでもかというくらい引き攣っているのを感じながら、僕は玄関に歩いて行った。 玄関のすぐそばにある永輝くんの部屋からは物音ひとつしなかった。 「永輝くん、帰るね」 「あぁ。かんなを頼んだぞ」 「うん」 ドア越しに別れを告げる。