「……ありがとうございます」
僕は、決して振り返ろうとせず黙々と白ねぎを刻み続ける大将に深く頭を下げた。
店から出てきた僕を待ち構えていたのは、啓介さんの沈んだ顔だった。
居たたまれない気持ちになる。
一番、つらい立場にいるのはこの人なのかもしれない……。
「……永輝のとこに行かねぇか?」
「えっ?……永輝くんは今、仕事中ですけど……」
「バーカ。永輝の休憩中にだよ。かんな抜きで話するにはそれしかないだろ?」
「あ……、そっか……」
みんな仕事を抱えていて、ゆっくり話ができるのは仕事が終わった夜か休みの日だけ。
だけど、そんな時はいつも、姉さんが永輝くんのそばにいて離れない。


