ココは、一歩後ずさった。
さっきの話をちらっと思い出し、逃げなければと思ったから。
「どうしたんですか?何故逃げるんです?」
青年は赤い瞳を細めにっこりと微笑んだ。
それでもココは体を固くしたままじっと青年を見つめた。
青年はやれやれと笑い頭にかぶった帽子をとった。
その頭には、確かに「獣の耳」があった。
それを見た瞬間、ココは逆方向に走り出した。
逃げないと。
でも、うまくはいかなくて。
生温い風がぶわっと吹き、華奢なココの体を軽く吹き飛ばした。
「きゃあっ」
ココは地面にたたきつけられ悲鳴をあげる。
顔をあげた先に、
さっきの青年が微笑みながら居た。
赤い瞳が一瞬、獲物を狙う獣の目をした。
「僕の名前はノエルと言います。
覚えていただけますか?」
赤い獣の瞳は閉じられ、微笑みに飲み込まれる。
同じ微笑みなのにルクの優しい笑顔とは、全然違ってー…
ココは返事もせずに震えた。
この、私の血を欲する獣が恐ろしくて、恐ろしくて。
ルクやダニエルはちっとも怖くなかったのに、
ノエルの瞳は血のような赤で、恐ろしかった。

