「──────え?」
鳴海義貞と思われるその男は、
抜き身の長刀を右手に、脇差を左手に持ったまま、
崖の上を風のように駆け抜ける。
「二刀流……間違いない、鳴海義貞だ!!
撃てっ!!殺せっ!!」
鉄砲が次々に、彼に向かって火を噴く。
しかし彼はそれをよけ、崩れる崖をものともせず走り続け……。
そして、あっという間に私の目の前へ着地した。
「あ、あ、あなた……!」
初対面のはずの、鳴海義貞。
しかしそれは、私のよく知った男だった。
彼は長刀はそのまま、脇差を鞘におさめる。
具足はつけず、いつもの普通の青い着物に、灰色の袴。
奥二重の目に、情の深さを表す厚い唇。
その唇で、私の唇を奪った男。
「博嗣……!!」



