「飲み終わったよ?」

「グラスちょうだい。」

「はーい。」


夢からグラスを受け取り、テーブルに置いた。
夢はというとソファーに座って目を瞑っている。


「ショウ、約束だよ?」

「あー…あぁ、そうだったね。」


やけに素直に甘える夢は確かに可愛いのだけれど、…どうも落ち着かない。
もっと甘えてくれてもいいのにと思うことはある。でも、それでも不器用に甘え方を測りかねてる夢が…やっぱり一番可愛い。


「…早く酔いがさめてくれますように。」

「ん?」

「目、閉じて。」

「うんっ!」


夢の唇に自分の唇をそっと重ねる。
唇を離すと夢が甘えた表情で俺の長そでの裾を掴んだ。


「もっと…。」

「酔いがさめたらね。」

「酔ってないよぉー。」

「そういうのを酔ってるって言うの。」

「…酔ってないのに…。」

「あとどうすればいいのかなぁ…あ、でも少し顔の火照りは引いたね。」


そう言って夢の両頬に手を添えると、夢はまたにっこりと笑った。
…本当に、こんな風に笑う夢は初めて見る。
もう1年以上一緒にいるけれど、…夢は笑うことにまだ抵抗がある。
だから時折、小さく笑う。そんな笑顔をこっそり見つけては自分も笑うということを繰り返してきたからこそ、今の彼女の笑顔がなんだか馴染まない。
嫌というわけじゃない。むしろこんな風に笑うようになればいいとも思っている。でも、それにはきっと時間がかかる。いや、時間をかけてゆっくりでいい。焦る必要なんてどこにもない。
その成長を一番近くで、傍で見つめていたいとそう思うんだ。