「ゆ、ゆゆ佑介さんっ…!」


予想よりもずっと慌てた声が返って来てくすっと笑みが零れる。慌てすぎだよ、ひなた。…何もしないってば。…一応、だけど。


「…徐々に慣れてよ。俺にも、この場所にも。少しずつでいいから。」

「…はい。」


本当に小さな声でそう言った瞬間に、なんとなくひなたの身体から少しだけ緊張感が抜けたような気がした。


「あ、ひなたから先にお風呂どうぞ。疲れてるだろ?」

「…え、でも佑介さんも疲れて…。」

「この時期のパティシエさんと疲労を比べたらどんな職業だって負けるよ。」

「確かに…キューティブロンドが1年で一番忙しくなる時期…ですから…わ、私もヘロヘロです。」

「うん。だと思った。だから先に身体を癒しておいで。」

「ありがとうございます。」


そう言うとひなたは一度取りに寄った着替えの入ったカバンを持ち上げる。


「あ、ちょっと待って。バスタオル出してくるから。さすがに持って来てないでしょ?」

「あ、はい。忘れてました!ごめんなさい…。」

「いいよいいよそんなの。ちょっと待ってね。あ、てかシャンプーとかある?俺んち普通に男ものしかないんだけど…。」

「それは、はい。旅行に行くときとかに使うやつを持って来たので。」

「そっか。じゃあ、ちょっと待ってて。」

「お手数掛けてすみません。」

「いいって。無理言ったのは俺だしね。」


この前しまったバスタオルを一つ出してきて、それをひなたに渡す。


「…ありがとうございます。」

「いえいえ。じゃあゆっくり身体を癒してね。」

「はい。」


小さく微笑んだひなたに俺も笑みを返す。…少し、緊張がほぐれてきたみたいだ。