「はいはい。ごちそーさま。」


けだるげにそう言って、ユウは机に突っ伏した。
残されたのはほんのり赤い頬をした紗衣と、それにつられて顔が熱くなってきた俺だけだ。


「…完全にユウのやつあたりだよね、今の。」

「…うん。」


沈黙が落ちる。お互い教室で顔を赤くして何やってんだかって思うけれど、暖かい教室ではそんなに簡単に熱が冷めてくれない。


「雨音さん!ちょっとここ教えてー!」

「え、あ、うんっ!」


ふっと俺の方を見る紗衣。その表情はやっぱりいつものように戸惑っていた。
だから俺は、極力優しく笑って彼女を送り出す。


「行っておいで。俺も勉強するし。あとで紗衣に聞くかも。」

「うんっ。が、頑張る!」

「気、張り過ぎないようにね。」


にっこりと一瞬俺に笑みを見せて、呼ばれた方に向かって行く紗衣。その背中を見送って、俺は席に着いた。


「…紗衣は、変わったね。」


そう口にして、思わず笑みが零れる。紗衣は変わった。
少しずつクラスに溶け込むようになり、笑顔が増えた。そしてこの受験シーズンとなっては勉強ができ、しかも教え方も上手い紗衣は引っ張りだこだ。
本人は最初とても戸惑っていたけれど、今はかなり慣れてきたようで、教えながらも笑顔になっているところを結構見る。とはいえ、呼ばれた瞬間はさっきのように戸惑った顔をこっちに向けてくるのは変わらない。(そう言えば最初はガチガチだったのは今思い出しても笑える。笑うと怒られるけど。)


…笑ってくれるのはやっぱり嬉しい、と本当に思う。
そんなことをぼんやりと思っていた時だった。


「大翔ー!今年、うちのクラスでクリスマスパーティすっけど来るだろ?」

「…はい?」