「……。」


返事が無い、ということはそれが答えなのだろう。


「…俺のことなら、ちゃんと話して。俺が悪いなら直すし。…一人で抱え込まないでほしい。」

「…颯…さんのせいとか、そういうことじゃない…です。」

「じゃあどういうこと?…俺、辛抱強い方だと思うから、待つよ、話してくれるのを。あ、でも今日中でお願いする。このまま帰したら引っ掛かっちゃって眠れそうにないし。」

「……。」


彼女の俯き加減がぐっと増した。ぎゅっと握った両拳が膝の上で少し震えている。
俺はその震える拳に手を添えた。


「…?」


少しだけ驚いたような表情を浮かべて俺を見つめる彼女。その表情に俺はなるべく優しくと心掛けて笑顔を返す。


「なに?怖いこと?」

「…ちょっと、怖い…です。」

「それは、俺が聞いたら怒るようなことだから?」

「…いいえ。でも、本当だったら、怖い…。」

「本当?」


その問いかけに彼女はまた黙ってしまった。彼女の視線はさらに下がる。


「でも、俺に関係がある話なんだよね?…凜一人で抱え込むのが辛いから、今こんな顔になってるんじゃないの?」

「…酷い顔、してますか?」

「少なくとも笑ってはないかな。だから俺は心配なんだ。」

「…あの…。」

「ん?」

「私…。」

「うん。」


少しずつ、彼女が言葉を選んでいるのが分かる。だから、その先を待つ。


「…私、颯さんに…我慢、させているのでしょうか?」

「え…?」