ゆっくりと唇を離すと、潤んだ瞳の紗衣が上目遣いでこっちを見つめていた。


「あ、ごめ…嫌だった…?」

「う、ううん…嫌…じゃなかった…よ…。」


そう言うと、きゅっと俺のコートを掴んで抱きついてくる。顔を隠したいんだろう。俺は紗衣の背中に腕を回した。


「ん…あ、見て、紗衣…雪。」

「え…?」


腕の中でゆっくりと顔を上げた紗衣が空を見上げる。俺もそれに応じてゆっくりと空を見上げた。


「…初雪…。」

「今日寒かったもんなぁ。雪も降るよ。」

「大翔くんのほっぺ…あ、溶けちゃった。」


手を伸ばそうとして引っ込める紗衣が妙に可愛く見えて仕方がない。いや、可愛いんだ。文句なしに可愛いんだ。顔も行動も言ってることも全部が。


俺は引っ込めそうになった手を掴んで、自分の頬にあてた。


「ひ、ろとくん…?」

「手、暖かいよね、紗衣。」

「大翔くんのほっぺも暖かい…けど。」

「初雪、溶けちゃうじゃん。熱で。」


ふわふわと舞い降りる雪が頬に、瞼にくっついては溶ける。
頬が熱い。紗衣の手も熱い。雪はきっとひとたまりもないだろう。


紗衣の手をゆっくりと下ろす。頬は充分に暖まった。


「紗衣。」

「え…?」


紗衣の頬にそっと口づける。柔らかくて暖かい。


「大翔くんっ…!」

「雪、ついてたから。」

「もー!雪のせいにしたー!」

「ごめんごめん。紗衣が可愛かったし、あとクリスマスだから、ね。」


*fin*