「紗衣、今日は楽しかった?」

「え…?」

「いっぱい笑ってたからさ。」

「楽しかった…よ。女の子に抱きつかれたのはびっくりしたけど、でも嬉しかった。」

「あ、なんかそれ、ちょっと妬ける。」

「え、あ、うわっ…!」


人通りの少ない道。俺たち以外誰もいない。
だからこそ俺はその手を引いた。華奢な身体を抱きしめる。


「見てたよ。紗衣、慌ててたけど笑ってた。楽しそうだった。」

「楽しかった。色んな人といっぱい話せた。笑った。笑ってくれた。…嬉しかった。みんなから見たら小さいことかもしれないけど、でも私は嬉しかった。」

「うん。紗衣が嬉しいなら俺も嬉しい。」

「でも…。」

「ん…?」


ゆっくりと腕を緩めてその顔を見る。


「やっぱり、落ち着くのは…大翔くんの隣…だよ。
みんなといるのも楽しかったけど…やっぱり大翔くんの隣が一番落ち着く。」

「っ…。」


こんなこと言われちゃ、たまらない。
俺の右手が何の躊躇いもなく紗衣の頬に触れた。


「大翔く…。」


顔を上げた紗衣の唇に自分のそれを重ねた。ひんやりと冷たいけど柔らかい感触が伝わってくる。
心臓はこれ以上ないってくらいにうるさく鳴っている。